原田先生のとっておきの話

「日本人がLを発音できないのが面白い」 ― Lululemonの命名に隠された差別的理由 ― 冬季五輪のカナダ代表ユニフォームを見て ― 【原田先生のとっておきの話】

LULULEMON × DISCRIMINATION × L/R

「日本人がLを発音できないのが面白い」
― Lululemonの命名に隠された差別的理由

― 冬季五輪のカナダ代表ユニフォームを見て、あなたはどう思いますか ―

💬 冬季五輪を見ていて、こんなことを知りましたか?

2026年ミラノ・コルティナ冬季五輪。カナダ代表のユニフォームを手がけるのは、ヨガウェアで世界的に有名な「Lululemon(ルルレモン)」。一見おしゃれなブランドですが、その名前の由来を調べてみると、英語教師として到底見過ごせない事実が出てきました。

Lululemon。日本でもヨガやフィットネスを愛する人にはお馴染みのカナダ発のアパレルブランドです。2022年の北京冬季大会からカナダ代表チームの公式アウトフィッターを務め、今回のミラノ大会で3度目。2028年のロサンゼルス夏季大会まで4大会連続で契約が続いています。

おしゃれなメイプルリーフのデザイン、機能的な素材、パラリンピック選手への配慮まで行き届いたウェア。ブランドとしての評価は非常に高い。

しかし――

この名前がどうやって生まれたか、ご存じですか?

🔍 創業者チップ・ウィルソンの「告白」

Lululemonの創業者チップ・ウィルソン氏は、2004年のカナダ「ナショナルポスト・ビジネスマガジン」のインタビューで、驚くべき発言をしています。

“The reason the Japanese liked [my former skateboard brand, ‘Homeless’] was because it had an L in it and a Japanese marketing firm wouldn’t come up with a brand name with an L in it. L is not in their vocabulary. It’s a tough pronunciation for them. So I thought, next time I have a company, I’ll make a name with three Ls and see if I can get three times the money.”

“It’s kind of exotic for them. I was playing with Ls and I came up with Lululemon. It’s funny to watch them try to say it.

訳すと、こうです。

「日本人が以前のブランド名 “Homeless” を気に入ったのは、Lが入っていたから。日本語にはLの音がない。発音が難しいんだ。だから次に会社を作るときは、Lを3つ入れた名前にすれば3倍儲かるかもしれないと思った。」

「彼ら(日本人)にとってはエキゾチックに聞こえるんだ。Lで色々遊んで、Lululemonを思いついた。彼らが発音しようとするのを見るのが面白いんだよ。

ブランド名に深い哲学があるわけでも、ヨガの精神が込められているわけでもありません。日本語にLの音がないことを「面白がって」、その発音の困難さをマーケティングの道具にした――それがLululemonの名前の由来です。

🎓 英語教師として言わせてください

私は英語教師です。日々、生徒たちがLとRの発音に苦労する姿を間近で見ています。

日本語話者にとってLとRの区別が難しいのは、日本語の音韻体系にそもそもLとRの区別が存在しないからです。日本語の「ら行」は、英語のLともRとも異なる独自の音(歯茎はじき音)。これは能力の問題ではなく、言語構造の違いです。

英語話者が日本語の「つ」を発音できないのと同じ

フランス語話者が英語の “th” を発音できないのと同じ

中国語話者が日本語の長短母音を区別できないのと同じ

どの言語の話者にも、母語にない音の習得は難しい。それは当たり前のことであり、笑いの種にしていいことでは断じてありません。

ちなみに、英語のネイティブスピーカーの多くは日本語の「りょ」「りゅ」などの拗音や促音の「っ」をうまく発音できませんが、それを笑い者にする日本のブランドは存在しません。

📜 ウィルソン氏のその後の「言い訳」と、止まらない炎上

この発言は大きな波紋を呼びました。経緯を整理すると、こうなります。

2004年 — ナショナルポスト紙のインタビューで問題発言

2005年 — 児童労働を擁護する発言、体型差別的発言も報じられる

2009年 — 公式サイトで「日本のマーケティング会社はLの入ったブランド名を作らない。Lを入れれば日本の消費者には本場の北米ブランドに聞こえる」と説明

2013年 — 「一部の女性の体型はうちの製品に合わない」発言で炎上、会長職を辞任

2015年 — ニューヨーク・タイムズ紙に対し、問題発言を「言っていない」と否定。取締役も退任

2022年 — TikTokで命名の由来を語る動画を投稿。「嘘やでっち上げが多い」と主張するも、過去の発言を掘り返され再炎上

ウィルソン氏は後に発言を否定していますが、元のインタビュー記事はBusiness Insider、Snopes、Financial Postなど複数のメディアが引用しており、事実認定機関Snopesも「True(事実)」と判定しています。

さらに、自身の著書でも「日本語にはLの音がないので、Lの入ったブランド名はよりエキゾチックに、より本物の北米ブランドに聞こえる」と記しており、日本語のLの不在をマーケティングに利用した意図は明白です。

🔗 これは「一個人の失言」では済まされない

「創業者の個人的な発言であって、今のLululemonとは関係ない」という見方もあるかもしれません。確かにウィルソン氏は2015年に取締役を退いていますし、現在のLululemonは多様性やインクルージョンを掲げています。

しかし、問題の本質はそこではありません。

ブランドの「名前そのもの」が差別的な動機から生まれているという事実は、経営陣が変わっても消えません。私たちが「ルルレモン」と口にするたび、その背後にある「日本人が発音に困る姿を面白がった」というエピソードが存在し続けるのです。

💡 Hornbach事件との類似性

2019年、ドイツのDIYチェーン「ホルンバッハ(Hornbach)」が、白人男性の汗まみれの下着をアジア人女性が自販機で購入し恍惚とした表情で嗅ぐ――というCMを制作し、世界中から非難を浴びました。ベルトコンベアには日本語で「春の匂い」と書かれ、日本人女性への偏見に基づいていることは明らか。ホルンバッハは「架空の都市であり差別ではない」と反論しましたが、4万人以上の署名が集まる抗議運動に発展しました。Lululemonの命名もHornbachのCMも、構造は同じです。「アジア人の特性を面白がる」ことをビジネスに利用しているのです。

🏒 冬季五輪とLululemon ― いま、改めて考える

2026年2月6日に開幕したミラノ・コルティナ冬季五輪。カナダ代表チームは、メイプルリーフをあしらった赤いLululemonのユニフォームに身を包んで入場しました。

おしゃれなデザイン。パラリンピック選手への配慮。メリノウールや耐摩耗性素材の機能性。ブランドとしての進化は確かにあります。

でも、テレビ画面にLululemonのロゴが映るたびに、私はどうしてもウィルソン氏の言葉を思い出してしまいます。

“It’s funny to watch them try to say it.”

「彼ら(日本人)が発音しようとするのを見るのが面白い」

SNS上でも、この事実を知った人たちの反応は様々です。「知らなかった、もう買わない」という声もあれば、「ボイコットまでは…」という声もある。Xでは「冬季五輪でカナダのユニフォームがルルレモンで大泣き」というポストも。判断は一人ひとりに委ねられますが、少なくとも事実を知ったうえで選択することが大事だと思います。

🌍 LとRの問題は「笑い話」ではない

最後に、英語教師としてどうしても伝えたいことがあります。

LとRの聞き分け・発音の問題は、日本語話者にとって本当に深刻なテーマです。就職面接で、学会発表で、海外旅行で、この問題に悩んでいる人はたくさんいます。「rice」と「lice」を間違えて笑われた経験がある人も少なくないでしょう。

言語の違いを「面白い」と消費するのは簡単です。でも、それをブランド名に刻み込んで世界中で売り続けるというのは、まったく次元の違う話です。

世界のどの言語にも、話者が苦手とする外国語の音があります。それは文化的な特性であり、「弱点」ではありません。ましてや、他者が利益のために利用してよいものでは、絶対にありません。

✨ まとめ ― 知ることから始めよう

整理します。

Lululemonの名前は「日本人がLを発音できないのが面白い」という動機から生まれた

創業者チップ・ウィルソンは2004年のインタビューで明言。Snopesも事実と認定

LとRの区別が難しいのは日本語の構造的特性であり、能力の問題ではない

ウィルソン氏は体型差別・児童労働擁護など数々の問題発言で2015年に退任

2026年冬季五輪ではカナダ代表ユニフォームとして世界中のテレビに映っている

買う・買わないは個人の自由。でも、事実を知ったうえで選択しよう

あなたが次にLululemonのロゴを見たとき、そこに込められた物語を知っている。それだけで、消費者としての自分の立ち位置が少し変わるはずです。

言葉の違いは、笑うものではなく、学ぶものです。

📝 この記事が面白かったら、ぜひシェアしてください。「原田先生のとっておきの話」では、英語や言葉にまつわる「知って得する雑学」を発信しています。

参考:Snopes Fact Check (2024)、Wikipedia “Lululemon”、NextShark (2024)、Business Insider (2015)、AFPBB News / Hornbach事件 (2019)、WWDJAPAN (2025)