「天ぷら」の語源がポルトガル語かどうかは、はっきりしていない
言葉と語源No.105

「天ぷら」の語源がポルトガル語かどうかは、はっきりしていない

辞書によって説明が違う。

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この判定の対象「天ぷらという言葉の語源は、ポルトガル語だ」

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もくじ
  1. 天ぷらの語源として挙げるポルトガル語は、辞書によって違う
  2. 記録に残る一番古い「てんぷら」(1669年)は、揚げ物ではなかったかもしれない
  3. 「江戸の人気作家が『天麩羅』と名づけた」という話は、それより古い記録と合わない
  4. 江戸の「てんぷら」と、関西の「てんぷら」は別の食べ物だった
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

「天ぷらの語源はポルトガル語」。そう聞いたことがある人は多いでしょう。では、どのポルトガル語でしょうか。

辞書を引くと、ここで答えが分かれます。ある辞書は「調理」を意味する tempero(テンペーロ)。別の辞書は、それに加えて têmporas(テンポラス)や、スペイン語の templo(テンプロ)も候補に挙げます。

もう一つ、あまり知られていないことがあります。平凡社の『世界大百科事典』は、こうしたポルトガル語説について、はっきり書いています。ポルトガル語から来たことを示す当時の記録は、今のところ見つかっていない、と。

天ぷらの名前について、どこまでが分かっていて、どこからが分かっていないのか。この記事では、まず辞書ごとの語源の説明を比べます。次に、日本の古い記録に「てんぷら」がどう出てくるかを見ます。最後に、江戸の作家・山東京伝が名づけたという話と、関西と江戸で「てんぷら」が別の食べ物だったことを紹介します。

01天ぷらの語源として挙げるポルトガル語は、辞書によって違う

まず、小学館の『日本国語大辞典』です。語源は、ポルトガル語の tempero(調理)とだけ書いています。

小学館の『デジタル大辞泉』は、もう少し丁寧です。ポルトガル語の tempero、têmporas、スペイン語の templo など「諸説がある(いくつもの説がある)」としています。

『日本大百科全書』は、語源には「定説はない」と書きます。そのうえで、外国語から来たという説が強い、としています。

候補の言葉の意味は、それぞれ次の通りです。

  • tempero:料理の味つけ。塩などの調味料のこと
  • têmporas:昔のカトリック教会で、季節ごとに3日ずつ、食事や肉をひかえた期間
  • templo:寺。天ぷらは肉を使わない精進料理(お寺の料理)だから、という説につながる

どれも temp というつづりで始まります。そして、どの言葉にも、天ぷらの語源らしい説明をつけることができます。でも、説明が作れることと、記録で確かめられることは別です。

02記録に残る一番古い「てんぷら」(1669年)は、揚げ物ではなかったかもしれない

では、日本の記録に「てんぷら」が最初に出てくるのはいつでしょう。

平凡社の百科事典によると、一番古い記録は1669年です。京都の医者、奥村久正が書いた料理の本『食道記』に、「てんふらり」という名前で出てきます。

ところが、その中身が今の天ぷらとは違います。書いてあるのは「小鳥たたきて、かまくらえび、くるみ、葛たまり」。小鳥の肉をたたいて、くずのあんをかけたもののようです。平凡社の百科事典は、この料理が揚げ物だったとは限らない、としています。

今の天ぷらに近い作り方が出てくるのは、1748年の『料理歌仙の組糸』です。この本には、魚に「うどんの粉」をまぶして油で揚げる、と書かれています。野菜は、水で溶いた粉を塗って揚げます。衣をつけて揚げる料理が、ここではっきり書かれているのです。

03「江戸の人気作家が『天麩羅』と名づけた」という話は、それより古い記録と合わない

天ぷらには、もう一つ有名な名前の由来話があります。江戸の人気作家、山東京伝(さんとうきょうでん)が名づけた、という話です。

話のもとは、京伝の弟、山東京山が書いた『蜘蛛の糸巻』という本です。その中身は、百科事典にも紹介されています。

天明(1781〜89年)のはじめごろ、大坂から利介という男がかけおちしてきました。利介は魚の揚げ物の店を出したいと言います。そこで京伝が言いました。「天竺浪人(どこから来たか分からない浪人)が、ふらりと江戸に来てはじめる店だ。だから『天麩羅』と名づけよう」。京伝は弟の京山を呼び、店の行灯(あんどん。明かりをともす道具)にこの字を書かせた、というのです。

「天竺」の浪人が「ふらり」と来たから「天麩羅」。言葉に合わせて字を当てた、しゃれの利いた話です。でも、この話は、もっと古い記録と合いません。同じ百科事典によると、近松門左衛門の『国性爺合戦』という劇に、もう「てんぷら」という言葉が出てきます。この劇が初めて上演されたのは1715年。京伝が名づけたという時代より、60年以上も前です。

先ほどの1748年の本にも出てくるので、少なくとも「てんぷら」という言葉そのものは、京伝より前からありました。

04江戸の「てんぷら」と、関西の「てんぷら」は別の食べ物だった

江戸時代には、同じ「てんぷら」という名前で、違う食べ物を指していました。

平凡社の百科事典によると、上方(京都・大坂)でいう「てんぷら」は、魚のすり身を丸めて、そのまま揚げた物でした。今でいう、さつま揚げです。一方、江戸では、衣をつけて揚げた物を「てんぷら」と呼びました。

この呼び方は今も少し残っています。『日本大百科全書』は、関西では、さつま揚げを「てんぷら」と呼ぶ所があると書いています。ちなみに鹿児島では、さつま揚げは「つけあげ」です。

では、なぜ全国で「てんぷら=衣揚げ」になったのでしょう。平凡社の百科事典は、明治の国語辞典『言海』などが、江戸の意味だけをのせたからではないか、と考えています。辞書が言葉の意味を一つに決めていった例かもしれません。

江戸のてんぷらは、屋台で串に刺して売られる、みんなの食べ物から広まった(イメージ)
江戸のてんぷらは、屋台で串に刺して売られる、みんなの食べ物から広まった(イメージ)
LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

古い記録の料理も、作家の名づけ話も、そのまま天ぷらの由来とは言えない

語源を調べるとき、一番強い証拠は、日付のついた古い用例(その言葉が実際に使われた文の例)です。天ぷらの場合、一番古いのは1669年の「てんふらり」でした。ところが、この料理は今の天ぷらとは形が違います。名前が同じでも、指している物が同じとは限りません。

京伝の命名話も、注意して読む必要があります。この話を書いたのは、京伝本人ではなく弟の京山です。そして、百科事典が挙げる1715年の『国性爺合戦』の用例や、1748年の料理の本の用例と合いません。こうした「有名人が名づけた」という話は、言葉の由来の説明として広まりやすいものです。でも、その人より古い用例が一つ見つかるだけで、話は成り立たなくなります。

ポルトガル語説は有力だが、16世紀の記録がないので決められない

ポルトガル語説が強いのは、天ぷらを南蛮料理(ポルトガルなどから来た料理)の仲間と見る考えが広くあるからです。ブリタニカ国際大百科事典の小項目は、天ぷらを「南蛮料理の肉のから揚げが変形したものといわれる」と紹介しています。

一方で、『世界大百科事典』は、ポルトガル語説を厳しく見ています。ポルトガル語などから来たという説は、思いこみから出たものだ。天ぷらは大航海時代(ヨーロッパの船が世界の海に乗り出した時代)に来た料理だ、という思いこみだ。当時の文献の証拠はない、と。

『日本大百科全書』も、別の角度から疑問を出しています。16世紀の中ごろに外国船が伝えたのなら、料理も名前も、もっと早く広まってよかったはずだ。ところが、天ぷらが広く知られるのは江戸時代の後半になってからだ、というのです。

ポルトガル語の辞書にも、tempura が日本の料理として載っている

ポルトガル語の辞書 Priberam には、tempura という言葉が「日本由来の料理」として載っています。語源の欄は「日本語の tenpura から。たぶんポルトガル語の tempero から」。ポルトガルの辞書も、「たぶん」と書いているのです。

音が似ているだけでは、どのポルトガル語が語源かは決められない

外国語が日本語に入るとき、音は日本語で言いやすい形に変わります。tempero は「テンペーロ」と読みます。このように、どの候補も、「テンペ」「テンポ」「テンプ」と「てんぷら」に近い音で始まります。

ここで考えたいのは、音が「似ている」ことの弱さです。tempero も têmporas も templo も、最初の temp までは同じです。どの候補を選んでも、そのあとの音の変化に、もっともらしい説明をつけることができます。だから、音が似ているだけでは、どれが正しいかは決められません。決め手になるのは、ポルトガル人と日本人がその言葉を使っていた、日付のある記録です。そうした記録が、今のところ見つかっていないのです。

もう一つの手がかりは、意味の変化です。1669年の「てんふらり」は、小鳥の肉にあんをかけた料理だったようです。江戸の「てんぷら」は衣揚げ、上方の「てんぷら」はすり身の揚げ物です。名前が同じでも、指す物は時代と場所で大きく違っていました。語源を考えるときは、「どの時代の、どの料理の名前だったのか」まで決めなければなりません。

「天麩羅」の漢字は、意味ではなく音に合わせて選んだもの

当て字とは、言葉の音に、意味とは関係なく漢字を当てることです。「天麩羅」も「天婦羅」も、「てんぷら」という音に合わせて選ばれた字です。

民間語源とは、本当の由来とは別に、人々が「こういう意味だろう」と考えて広まった説明です。「天麩羅」の漢字を見て「天竺浪人のてん」と考えるのは、民間語源の例と言えます。

05まとめ

天ぷらの語源は、ポルトガル語説が有力です。でも、候補の語は tempero、têmporas、templo と辞書によって違い、16世紀の証拠はまだ見つかっていません。一番古い記録は1669年の「てんふらり」で、それは揚げ物ですらなかったかもしれません。関西のお店で「てんぷら」を頼んだら、さつま揚げが出てくることがあるかもしれません。それは、江戸時代の上方での呼び方が、今も残っているからです。

人に話すなら、こう言おう

天ぷらの語源ってポルトガル語って言われるけど、ポルトガル語から来たことを示す当時の記録は、まだ見つかってないんだって。関西の一部では今でも、さつま揚げのことを「てんぷら」って呼ぶらしいよ。
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英語で読む

Where Does the Word Tempura Come From?

CEFR A2216 words4択 5問全訳つき
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Many people say that the word tempura comes from Portuguese.天ぷらという言葉はポルトガル語から来た、と言う人はたくさんいます。 But which Portuguese word?でも、どのポルトガル語でしょうか。 If you open three Japanese dictionaries, you may find three different answers.日本の辞書を3冊開くと、3つのちがう答えが見つかるかもしれません。

One dictionary says it comes from tempero, a word for cooking or seasoning.ある辞書は、料理や味つけを表す tempero から来たと言います。 Another also lists têmporas, the old Catholic fasting days, and the Spanish word templo, which means temple.別の辞書は、昔のカトリックの断食の日を表す têmporas や、「寺」を意味するスペイン語の templo も挙げています。 One encyclopedia says that no written proof from that time has been found yet.ある百科事典は、当時の書かれた証拠はまだ見つかっていないと書いています。

The oldest record of the word in Japan is from 1669.日本でこの言葉が出てくる最も古い記録は、1669年のものです。 A doctor in Kyoto wrote about a dish called tenpurari.京都の医者が、「てんふらり」という料理について書きました。 But it seems to have been made of small birds and a thick sauce, and it may not have been fried.でもそれは小鳥と、とろみのあるたれで作られたもののようで、揚げ物ではなかったかもしれません。 A recipe close to modern tempura appeared in a cookbook in 1748.今の天ぷらに近い作り方は、1748年の料理の本に出てきました。

There is also a famous story about the writer Santo Kyoden.作家の山東京伝についての有名な話もあります。 His brother wrote that Kyoden made up the name in the 1780s.京伝の弟は、京伝が1780年代にこの名前を考えたと書きました。 However, an encyclopedia says the word was already used in a play in 1715.しかし、ある百科事典によると、この言葉は1715年の劇でもう使われていました。 So the story cannot be the whole truth.だから、その話がすべて本当だとは言えません。

Here is one more surprise.もう一つ、びっくりすることがあります。 In the Edo period, people in Osaka and Kyoto used the word tempura for fried fish cakes.江戸時代、大坂や京都の人たちは、魚のすり身を揚げたものを「てんぷら」と呼んでいました。 Even today, some people in the Kansai area call these fish cakes tempura.今でも関西地方には、この揚げかまぼこを「てんぷら」と呼ぶ人たちがいます。 The history of a word can be as rich as its taste.言葉の歴史は、その味と同じくらい豊かなことがあるのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2When is the oldest record of the word in Japan from?

    日本でこの言葉が出てくる最も古い記録はいつのものですか。

  3. Q3Why can the story about Santo Kyoden not be the whole truth?

    山東京伝の話がすべて本当だとは言えないのはなぜですか。

  4. Q4In paragraph 2, the word "proof" is closest in meaning to

    第2段落の proof という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the word tempura in the Kansai area?

    関西地方での「てんぷら」という言葉について、正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • Portuguese名詞・形容詞
    ポルトガル語(の)、ポルトガルの

    People speak Portuguese in Brazil.

    ブラジルではポルトガル語が話されている。

    💡 Portugal(国名)と Portuguese(言語・人・形容詞)を区別する。Japan / Japanese と同じ形。

  • dictionary名詞
    辞書

    I looked up the word in my dictionary.

    私はその言葉を辞書で調べた。

    💡 look up ~ in a dictionary で「辞書で~を調べる」。

  • seasoning名詞
    調味料、味つけ

    Salt is the most common seasoning.

    塩はいちばんよく使われる調味料だ。

    💡 動詞 season(味をつける)から。season(季節)と同じつづり。

  • encyclopedia名詞
    百科事典

    The encyclopedia has a long article about Japan.

    その百科事典には日本についての長い記事がある。

    💡 dictionary は言葉の意味、encyclopedia は物事の説明を調べる本。

  • proof名詞
    証拠、証明

    Do you have any proof of that?

    そのことに何か証拠はありますか。

    💡 動詞 prove(証明する)の名詞形。evidence もほぼ同じ意味。

  • record名詞
    記録

    There is no record of his birthday.

    彼の誕生日の記録は残っていない。

    💡 名詞はレコード(前にアクセント)、動詞「記録する」は re-CORD(後ろにアクセント)。

  • recipe名詞
    料理の作り方、レシピ

    My grandmother gave me her cake recipe.

    祖母がケーキの作り方を教えてくれた。

    💡 発音は「レシピ」に近い(re-ci-pe の3音節)。a recipe for ~ で「~の作り方」。

  • fry動詞
    (油で)揚げる、いためる

    She fried some fish for dinner.

    彼女は夕食に魚を揚げた。

    💡 過去形は fried。fried chicken(フライドチキン)、French fries(フライドポテト)。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 18件)。

  1. 天麩羅(精選版 日本国語大辞典/デジタル大辞泉/改訂新版 世界大百科事典、コトバンク)kotobank.jp
  2. てんぷら(日本大百科全書(ニッポニカ)/ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、コトバンク)kotobank.jp
  3. 薩摩揚(日本大百科全書(ニッポニカ)ほか、コトバンク)kotobank.jp
  4. têmporas(Dicionário Priberam da Língua Portuguesa)dicionario.priberam.org
  5. tempero(Dicionário Priberam da Língua Portuguesa)dicionario.priberam.org
  6. tempura(Dicionário Priberam da Língua Portuguesa)dicionario.priberam.org

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