SOSは「Save Our Souls」の略ではなく、モールス信号の並びから来た
言葉と語源No.223

SOSは「Save Our Souls」の略ではなく、モールス信号の並びから来た

SOSは、何の略でもない。

ウソFALSE

この判定の対象「SOSは、Save Our Souls の略だ」

うなり度 読む時間9分 出典8件 確認した事実29件
もくじ
  1. 1906年の国際条約が決めた遭難信号は、文字ではなく「・・・---・・・」だった
  2. 条約の2か月後には、専門誌がこの信号を「SOS」と呼んでいた
  3. 1910年の雑誌は、同じ信号を「SOS」ではなく「S 5 S」と書いていた
  4. SOSの前に使われていた「CQD」は、タイタニック号でも送られた
  5. CQDの意味と、SOSが選ばれた理由は、資料によって説明が違う
  6. 深掘り講義
  7. まとめ
  8. 英語で読む(A2・4択5問)
  9. 出典・ウラ取り

「SOSは、Save Our Souls(私たちの魂を救え)の略」。そう聞いたことがある人は多いでしょう。Save Our Ship(私たちの船を救え)だ、という説明もあります。

でも、SOSが国際的な遭難信号に決まった1906年の条約を読むと、そこに S・O・S という文字はありません。書かれているのは「・・・---・・・」という、点と線の並びだけです。

モールス信号では、点3つが S、線3つが O を表します。だから、この並びを文字で書くと「SOS」になります。SOSは、何かの言葉の頭文字ではありません。点と線の並びを、文字で書き表したものなのです。

この記事では、まず1906年の条約に何が書かれていたかを見ます。次に、SOSより前に使われていた「CQD」という信号と、タイタニック号の無線係が何を送ったかを確かめます。最後に、SOSがどう呼ばれ、いつ使われなくなったかを見ます。

011906年の国際条約が決めた遭難信号は、文字ではなく「・・・---・・・」だった

1906年11月3日、ドイツのベルリンで、無線電信の国際条約が結ばれました。無線電信とは、電線を使わず、電波でモールス信号を送る通信です。条約を結んだのは、日本、アメリカ、イギリス、ドイツなど27か国でした。

条約には、無線局が守る決まり(業務規則)がついていました。その第16条は、こう定めています。遭難した船は、次の信号を、短い間をおいてくり返し送ること。そして、その信号として「・・・---・・・」が書かれています。

アメリカの政府印刷局が1912年に出した英語版で、この条文を確かめることができます。国際電気通信連合(ITU)の図書館が、その本をスキャンして公開しています。条文には、点と線が並んでいるだけです。S・O・S の文字も、何かの言葉の略だという説明もありません。

第16条には、信号を受けた側の決まりもありました。この信号に気づいた局は、ほかの通信をすべてやめなければなりません。助けを求める相手の局が決まっていなければ、気づいた局はどこでも答えなければなりません。この条約と規則は、1908年7月1日から効力を持ちました。つまり、この日から実際に守る決まりになったのです。

1906年の条約が決めたのは、文字ではなく点と線の並びだった(イメージ)。
1906年の条約が決めたのは、文字ではなく点と線の並びだった(イメージ)。

02条約の2か月後には、専門誌がこの信号を「SOS」と呼んでいた

点と線の並びは、すぐに文字で呼ばれるようになりました。条約から約2か月後の1907年1月12日、アメリカの電気の専門誌『Electrical World』が条約を紹介しています。その中で、遭難した船は「SOS」という特別な信号を、短い間をおいてくり返す、と書きました。

アメリカの辞書『American Heritage 英語辞典』も、SOSを、モールス信号の・・・---・・・が表す文字だと説明しています。文字が先にあったのではありません。信号が先にあり、それを文字で書いたのがSOSなのです。

日本の『日本大百科全書(ニッポニカ)』も、はっきり書いています。SOSを Save our soul や Save our ship の頭文字とするのは、俗説(世間に広まっているが、根拠のない説)だ、と。

031910年の雑誌は、同じ信号を「SOS」ではなく「S 5 S」と書いていた

SOSという文字が、点と線の並びを書き表す方法の1つにすぎなかったことを示す記録もあります。アメリカの雑誌『Popular Mechanics』の1910年2月号です。

記事によると、ミシガン湖で、汽船ピューリタン号がかじを失い、荒れた波の中で助けを呼びました。そのときの遭難信号を、記事は「S 5 S」と書いています。真ん中がアルファベットの O ではなく、数字の5なのです。

記事は、この信号を「アメリカの遭難信号」と呼んでいます。そして、文字の組み合わせに特別な意味はない、と書いています。すばやく打てて見分けやすい点と線の並びにすぎない、というのです。並びとして、点3つ、線3つ、点3つが示されています。

同じ並びが、SOSとも「S 5 S」とも書かれていたわけです。少なくとも1910年のアメリカでは、この並びの文字での書き方が、1つに決まっていなかったことが分かります。

04SOSの前に使われていた「CQD」は、タイタニック号でも送られた

SOSが広まる前には、「CQD」という別の遭難信号が使われていました。『Popular Mechanics』の1910年の記事によると、CQDは、マルコーニ社という無線会社が使う、助けを呼ぶ信号でした。記事は、アメリカの信号(S 5 S)とCQDを、張り合う無線会社がそれぞれ使っている、と書いています。

アメリカで記録に残る最初のSOSは、1909年8月11日に送られました。ノースカロライナ州の資料によると、場所はハッテラス岬の沖です。汽船アラパホー号の無線係テオドア・ハウブナーが、助けを求めました。ハウブナーは、新しいSOSと古いCQDのどちらを送るか迷い、両方を送ったそうです。

1912年4月のタイタニック号でも、2つの信号が使われました。生き残った無線係ハロルド・ブライドが、マルコーニ社に報告書を出しています。この報告書は、アメリカ上院の調査の記録にも入っています。

ブライドによると、もう1人の無線係フィリップスは、まず船長に聞きました。決まりの遭難信号であるCQDを使いましょうか、と。船長が「はい」と答え、フィリップスはCQDを打ち始めました。その後、船の前のほうの甲板が水につかったころ、フィリップスはCQDとSOSの両方を送っています。

05CQDの意味と、SOSが選ばれた理由は、資料によって説明が違う

CQDが何の略かは、資料によって説明が違います。

  • ニッポニカと1910年の雑誌:Come quick, danger(早く来て、危ない)の略。
  • ノースカロライナ州の資料:calling all stations - distress(全部の局へ、遭難)の意味。

SOSが選ばれた理由も、1906年の条文には書かれていません。理由が書いてあるのは、後の資料です。ニッポニカは、CQDはモールス信号として聞き取りにくかったと書きます。そしてSOSは、送るのが簡単で、受けるときにも間違いが起きないから選ばれた、と説明しています。ノースカロライナ州の資料も、点3つ・線3つ・点3つの形は目立ち、電信で送りやすかった、と書いています。

つまり、「点と線の並びが、送りやすく聞き分けやすい」という説明では、資料が一致しています。一方、どの資料も「Save Our Souls」を理由には挙げていません。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

すでにある語に、あとから言葉を当てはめたものを「バクロニム」と呼ぶ

ふつうの頭字語(頭文字をつないだ言葉)は、先に長い言葉があります。たとえば NATO は、North Atlantic Treaty Organization(北大西洋条約機構)の頭文字です。長い言葉が先で、短い語が後です。

SOSは、その逆の順番です。まず点と線の信号がありました。次に、それを文字で SOS と書くようになりました。最後に、その3文字に合う Save Our Souls という言葉が当てはめられました。

『American Heritage 英語辞典』は、このように、すでにある語に頭文字が合う言葉を後から作ったものを、backronym(バクロニム)と呼んでいます。back(後ろ、逆)と acronym(頭字語)を合わせた言葉です。辞書は例として、wiki に後から当てはめた what I know is を挙げています。SOSの Save Our Souls も、同じ形です。

言葉の歴史を調べるときは、順番が大切です。どの記録が先に出てくるかを見れば、文字が先か、言葉が先かが分かります。

一次資料をたどると、信号 → 文字 → 言葉 の順番が見える

この記事で使った記録を、年の順に並べてみます。

  1. 1906年11月:条約の業務規則の第16条に「・・・---・・・」。文字はない。
  2. 1907年1月:専門誌が、この信号を「SOS」と書く。
  3. 1909年8月:アメリカで記録に残る最初のSOS。無線係はCQDも一緒に送った。
  4. 1910年2月:別の雑誌が、同じ並びを「S 5 S」と書き、「文字に特別な意味はない」と説明する。
  5. 1912年4月:タイタニック号でも、CQDとSOSの両方が送られる。

このように、最初に書かれた文書(一次資料)を年の順に並べると、説明の正しさを確かめられます。「SOSは Save Our Souls の略」が本当なら、1906年の条文に、その言葉が出てくるはずです。でも、出てきません。

日本でSOSが使われなくなった日は、辞典によって書き方が違う

遭難信号の決まりが効力を持った1908年から、日本でSOSが使われなくなった1999年までは、90年あまりです。日本では、衛星通信を使う新しい制度の導入に合わせて、使われなくなりました。新しい制度は、GMDSS(Global Maritime Distress and Safety System)と呼ばれます。ニッポニカは「全世界的海上安全制度」と訳しています。ここで、辞典によって書き方に違いがあります。

  • 日本国語大辞典:1999年1月31日をもって廃止。
  • ニッポニカ:1999年2月1日以降、使われなくなった。モールス信号をやめていない国もある。
  • マイペディア:1998年にモールス符号が廃止されて、SOSも要らなくなった。

1月31日で廃止と、2月1日から使わないは、同じことの言い方の違いと読めます。マイペディアの1998年だけが、ほかの2つと1年ずれています。

アメリカでは、もっと早い動きがありました。国際海事機関(IMO)が1993年2月に出した通知があります。それによると、アメリカの代表がIMOの会議でこう伝えました。アメリカ沿岸警備隊は、1993年8月1日から、遭難用の周波数500キロヘルツの聞き張り(いつも受信して待つこと)をやめる。中波と呼ばれる電波の帯域でのモールス信号の業務も、すべてやめる、と。500キロヘルツは、ニッポニカが、船のSOSに使う周波数として挙げている数字です。

声で助けを呼ぶときの言葉は「メイ・デイ(Mayday)」

SOSは、モールス信号で送る信号です。声で話す無線電話では、別の言葉を使います。ニッポニカによると、それが「メイ・デイ(Mayday)」です。『American Heritage 英語辞典』によると、Mayday はフランス語の m'aider(私を助けて)から来ています。

SOSと違って、メイ・デイには、もとになった言葉がはっきりあります。同じ「助けて」の合図でも、SOSは点と線の並びから、メイ・デイはフランス語の言葉から生まれたのです。

06まとめ

SOSは、Save Our Souls の略ではありません。1906年の国際条約が遭難信号として決めたのは、「・・・---・・・」という点と線の並びでした。この並びをモールス信号の文字で書くと SOS になるので、そう呼ばれるようになりました。それより前は、マルコーニ社の CQD が使われ、タイタニック号の無線係は CQD と SOS の両方を送りました。日本国語大辞典などによると、日本では SOS は1999年に使われなくなりました。1910年のアメリカの雑誌には、同じ信号を「S 5 S」と書いた記事が残っています。

人に話すなら、こう言おう

SOSって「Save Our Souls」の略だと思ってたけど、違うんだって。1906年の国際条約には、点3つ・線3つ・点3つの信号としか書いてなくて、文字は後から当てはめたものらしいよ。
READ IN ENGLISH

英語で読む

SOS Does Not Stand for Anything

CEFR A2226 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Many people think that SOS means "Save Our Souls."SOSは「Save Our Souls(私たちの魂を救え)」の意味だと思っている人はたくさんいます。 Others say that it means "Save Our Ship."「Save Our Ship(私たちの船を救え)」の意味だと言う人もいます。 But neither idea is true.でも、どちらの考えも本当ではありません。

In 1906, 27 countries, including Japan, signed an agreement in Berlin, Germany.1906年、日本をふくむ27か国が、ドイツのベルリンで条約を結びました。 The agreement chose a new signal for ships in danger.その条約は、危ない目にあった船のための新しい信号を決めました。 The signal did not use any letters.その信号には、文字は使われていませんでした。 It was only a pattern of three dots, three dashes, and three dots.それは、点3つ、線3つ、点3つという並びだけでした。 In Morse code, three dots are the letter S, and three dashes are the letter O.モールス信号では、点3つはSの文字、線3つはOの文字です。 So people started to call the pattern SOS.そこで、人々はその並びをSOSと呼ぶようになりました。

Before SOS, the Marconi radio company used a different signal, CQD.SOSより前、マルコーニという無線の会社は、CQDという別の信号を使っていました。 In 1909, a radio operator on a ship near North Carolina could not decide which signal to send.1909年、ノースカロライナ州の近くにいた船の無線係は、どちらの信号を送るか決められませんでした。 So he sent both of them.そこで彼は、両方を送りました。 In 1912, a radio operator on the Titanic also sent both CQD and SOS.1912年、タイタニック号の無線係も、CQDとSOSの両方を送りました。

A magazine from 1910 even wrote the same signal as "S 5 S."1910年のある雑誌は、同じ信号を「S 5 S」と書いていたほどです。 It said that the letters had no special meaning.その雑誌は、文字には特別な意味はないと書きました。 The pattern was simply quick to send and easy to recognize.その並びは、ただ送るのが速く、見分けやすいだけだったのです。

Later, people made up the words "Save Our Souls" to match the letters.あとになって、人々はその文字に合うように「Save Our Souls」という言葉を作りました。 A word that gets its meaning this way is called a backronym.このようにして意味がつけられた言葉は、バクロニムと呼ばれます。 In Japan, ships stopped using SOS in 1999.日本では、1999年に船がSOSを使うのをやめました。 So the story of SOS goes in this order.つまり、SOSの話はこの順番で進みます。 First came the dots and dashes, then the letters, and the words came last.最初に点と線があり、次に文字ができ、言葉は最後に来たのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2When did 27 countries sign the agreement in Berlin?

    27か国がベルリンで条約を結んだのはいつですか。

  3. Q3Why did people start to call the pattern SOS?

    人々がその並びをSOSと呼ぶようになったのはなぜですか。

  4. Q4In paragraph 4, the word "recognize" is closest in meaning to

    第4段落の recognize という語に最も近い意味はどれですか。

  5. Q5Which is true about the story?

    この話について正しいものはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • signal名詞
    信号、合図

    The teacher gave us a signal to start.

    先生は私たちに始めの合図をした。

    💡 sign(しるし)の仲間の語。traffic signal で「信号機」。

  • agreement名詞
    協定、条約、合意

    The two schools made an agreement to share the field.

    2つの学校は、グラウンドを一緒に使う取り決めをした。

    💡 agree(賛成する)+ -ment(名詞を作る)。

  • pattern名詞
    並び方、模様、型

    This shirt has a pattern of small stars.

    このシャツには小さな星の模様がある。

    💡 音や形がくり返される「型」のこと。

  • dash名詞
    (モールス信号の)線、長い音

    In Morse code, a dash is longer than a dot.

    モールス信号では、線は点より長い。

    💡 動詞では「急いで走る」。dot(点)とセットで覚える。

  • operator名詞
    (機械の)係、操作する人

    The radio operator listened carefully all night.

    無線係は一晩中、注意深く耳をすませた。

    💡 operate(動かす、操作する)+ -or(〜する人)。

  • recognize動詞
    (見て・聞いて)それと分かる

    I did not recognize her with her new glasses.

    新しい眼鏡をかけていたので、彼女だと分からなかった。

    💡 前に知っていたものを「それだ」と見分けること。

  • match動詞
    合う、合わせる

    Your bag matches your shoes.

    あなたのかばんは靴と合っている。

    💡 名詞では「試合」「マッチ」の意味もある。

  • backronym名詞
    バクロニム(すでにある語に、後から頭文字の合う言葉を当てはめたもの)

    "Save Our Souls" is a famous backronym.

    「Save Our Souls」は有名なバクロニムだ。

    💡 back(逆に)+ acronym(頭字語)を合わせた言葉。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 29件)。

  1. Radio Telegraph Convention of Berlin: 1906(米国政府印刷局1912年刊、ITU 図書館スキャン)search.itu.int
  2. COM/Circ.115 Discontinuation of Morse Code Services in the MF Radiotelegraphy Band(国際海事機関 IMO、1993年2月10日。米国沿岸警備隊 航行センターの保存版、Internet Archive)web.archive.org
  3. The International Radio-Telegraphic Convention, Electrical World 1907年1月12日号(Internet Archive)archive.org
  4. "S 5 S" Rivals "C Q D" for Wireless Honors, Popular Mechanics 1910年2月号(Internet Archive)archive.org
  5. "Titanic" Disaster: Hearings before a Subcommittee of the Committee on Commerce, U.S. Senate (1912)(Internet Archive)archive.org
  6. Distress Signal SOS First Heard at Hatteras, 1909(ノースカロライナ州 自然文化資源局)dncr.nc.gov
  7. SOS(精選版 日本国語大辞典/日本大百科全書(ニッポニカ)/百科事典マイペディア、コトバンク)kotobank.jp
  8. SOS/backronym(The American Heritage Dictionary of the English Language)ahdictionary.com

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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