アゲハチョウのメスは、前脚で葉をたたいて味を確かめてから卵を産む
定番雑学の"その先"No.281

アゲハチョウのメスは、前脚で葉をたたいて味を確かめてから卵を産む

アゲハのメスは、葉を前脚でたたいて味見する。

ホントTRUE

この判定の対象「チョウは足で味を感じる」

うなり度 読む時間8分 出典4件 確認した事実26件
もくじ
  1. チョウが足で味を感じることは、約100年前の実験で調べられていた
  2. アゲハのメスは、前脚で葉をたたいて味見する
  3. 2011年、シネフリンを感じる前脚のセンサーが見つかった
  4. センサーの働きを止めたメスは、シネフリンをぬった葉に卵を産みにくくなった
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

ミカンの木の葉に、アゲハチョウのメスが飛んできました。葉にとまると、細い前脚で葉の表面をトントンとたたきます。そして、おなかの先を葉にのばして卵を産むか、すぐに飛び去るかを決めます。

アゲハチョウの幼虫は、決まった種類の植物の葉しか食べて育ちません。だからメスは、卵を産む前に、その葉が幼虫のえさになるかを確かめる必要があります。そのときに使うのが、前脚の先にある「味のセンサー」です。

「チョウは足で味を感じる」という話は、雑学として知られています。この話には続きがあります。2011年、日本の研究チームが、アゲハのメスの前脚で働く「ミカンの葉の味」のセンサーを見つけました。そして、そのセンサーの働きを止めたメスは、シネフリンをぬった人工の葉に卵を産みにくくなりました。

この記事では、まず、チョウが足で味を感じることがどう調べられてきたかを紹介します。次に、アゲハのメスが葉をたたく理由を説明します。最後に、2011年の研究が、センサーをどうやって見つけ、どう確かめたかを紹介します。

01チョウが足で味を感じることは、約100年前の実験で調べられていた

チョウの足で味を調べる研究は、古くからあります。1921年、ドワイト・ミニッチ(Dwight E. Minnich)は、ある論文を出しました。タテハチョウの仲間2種で、足の先にある「物質を感じとる器官」を実験で調べた論文です。

翌1922年には、ヨーロッパアカタテハというチョウの足が、砂糖水にどれくらい敏感かを、数で表す研究もしています。チョウの足が、ふれた物の味を感じとることは、この時代から実験で調べられてきたのです。

02アゲハのメスは、前脚で葉をたたいて味見する

アゲハチョウの仲間(アゲハチョウ科)がえさにする植物は、1つか少しの科に限られています。アゲハチョウ属のチョウの多くは、ミカン科かセリ科の植物しか食べません。論文によると、ナミアゲハはいちばんふつうに見られるアゲハで、ミカン科の葉を食べます。

メスは、卵を産む前に、葉の表面を前脚でたたきます。この動きは「ドラミング」と呼ばれます。2011年の論文によると、メスは葉の中の決まった物質を前脚で感じとったときにだけ、卵を産みます。

味を感じとる場所は、前脚のいちばん先の節です。ナミアゲハのメスでは、この節に50〜70本の感覚の毛(感覚子)が生えています。卵の産み方や毛のつくりがよく似たオオモンシロチョウでは、この毛がくわしく調べられています。毛1本の中には、物質を感じる神経の細胞が4つと、ふれたことを感じる神経の細胞が1つ入っていました。

では、メスは葉の何を感じているのでしょう。ナミアゲハについては、それまでに別の研究グループが、ミカンの葉から、卵を産ませる物質を10種類見つけていました。2011年の研究チームも、この結果を確かめ直しました。2つの物質、シネフリンとカイロイノシトールを組み合わせると、10種類全部を混ぜたときの約7割の効き目がありました。片方だけでは、メスは卵を産みませんでした。

アゲハのメスの前脚の先には、50〜70本の感覚の毛がある。メスはこの毛で葉にふれて、葉の成分を感じとる。
アゲハのメスの前脚の先には、50〜70本の感覚の毛がある。メスはこの毛で葉にふれて、葉の成分を感じとる。

032011年、シネフリンを感じる前脚のセンサーが見つかった

2011年11月、日本のチームが科学誌 Nature Communications に論文を出しました。中心になったのは、JT生命誌研究館の尾崎克久さんや、九州大学の谷村禎一さんたちです。

チームは、ナミアゲハのメスの前脚の先で働いている遺伝子の断片(読みとった遺伝子の一部)を、2万以上調べました。その中から、味のセンサー(味覚受容体)の設計図になる遺伝子を1つ見つけました。名前は「PxutGr1」です。この遺伝子は、メスの前脚の先で、特によく働いていました。

次に、この遺伝子が、どの物質に反応するセンサーを作るのかを調べました。チームは、昆虫の培養細胞に、この遺伝子と、光る物質を作る遺伝子を入れました。センサーが物質に反応すると、細胞が光るしかけです。

卵を産ませる10種類の物質のうち、手に入った9種類を、1つずつ細胞にかけました。すると、細胞が強く光ったのは、シネフリンのときだけでした。ミカンの葉から取り出した液(抽出液)をかけたときと同じくらいの強さでした。調べた物質の中で、PxutGr1が感じたのはシネフリンだけだったのです。

04センサーの働きを止めたメスは、シネフリンをぬった葉に卵を産みにくくなった

最後に、チョウの体の中でこのセンサーが使われているかを確かめました。チームは、羽化する5日前のさなぎに、PxutGr1の働きだけを弱める物質(2本鎖のRNA)を注射しました。この方法では、遺伝子の働きは完全には止まらず、大きく弱まります。この記事では、このメスを「センサーを止めたメス」と呼びます。

羽化したメスの前脚の毛に、電極を当てて反応を測りました。すると、シネフリンへの反応は大きく弱まっていました。ほかの物質(スタキドリンやカイロイノシトール)への反応は、変わりませんでした。

次に、シネフリンとカイロイノシトールをぬった人工の葉を用意しました。センサーを止めたメス19匹のうち、この葉に卵を産んだのは21%でした。比べるために水を注射したメス9匹では78%、関係のない遺伝子用のRNAを注射したメス16匹では62%でした。論文は、おなかの先を人工の葉につける動きも「卵を産んだ」に数えています。

センサーを止めたメスも、ふつうのメスと同じくらい元気に葉をたたいていました。前脚は葉にふれていたのです。それでも、なかなか卵を産みませんでした。この葉の上では、ほかのメスより長くたたき続けました。

ただし、ミカンの葉の抽出液をぬった人工の葉には、センサーを止めたメスも数秒で卵を産みました。シネフリンが分からなくても、ほかの物質を感じる別のセンサーで、ミカンの葉だと分かったと考えられます。論文は、メスはいくつものセンサーを組み合わせて葉を見分けている、と考えています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

昆虫の味のセンサーは、ショウジョウバエの遺伝子を手がかりに探された

味のセンサー(味覚受容体)は、細胞の表面にあるたんぱく質です。決まった物質がくっつくと、神経の細胞に信号が流れます。昆虫の味覚受容体は、細胞の膜を7回つらぬく形をしています。

手がかりになったのは、ショウジョウバエです。ショウジョウバエの遺伝子が全部読まれると、味覚受容体の遺伝子が60個見つかりました。そこから作られるたんぱく質は68種類です。たとえば Gr5a は、トレハロースという糖を感じるセンサーでした。

尾崎さんたちは、この形の特徴を手がかりに、アゲハの前脚の遺伝子の中から候補を探しました。見つかったPxutGr1は、407個のアミノ酸でできていて、膜をつらぬく部分が7か所ありました。

細胞にもともとあるセンサーと区別するために、薬で反応を消した

実験で使った昆虫の培養細胞には、困ったことがありました。もともと、オクトパミンという物質を感じるセンサーを持っていて、それがシネフリンにも少し反応するのです。これでは、光ったのがPxutGr1のせいなのか、分かりません。

チームは、2つの方法で区別しました。1つは、ミアンセリンという薬です。この薬は、もともとのセンサーの反応を消しますが、PxutGr1のシネフリンへの反応は消しませんでした。もう1つは、PxutGr1の働きを止めるRNAを細胞の中で作らせる方法です。すると、シネフリンへの強い反応は、もともとのセンサーだけの弱い反応まで下がりました。

「比べるための注射」が、結果の意味を決める

チョウに注射するときも、チームは比べる相手を2つ用意しました。水だけを注射したメスと、クラゲの光るたんぱく質(GFP)の遺伝子用のRNAを注射したメスです。GFPの遺伝子は、チョウの体の中にはありません。だから、このRNAでは何も止まらないはずです。

もし「注射そのもの」や「RNAを入れること」で卵を産まなくなるなら、比べる相手のメスも産まなくなるはずです。実際には、比べる相手は62〜78%が卵を産み、PxutGr1を止めたメスだけが21%でした。注射を受けたチョウの95%以上は生き残りました。

葉の味の見分け方が変わると、チョウの種類が分かれるきっかけになるかもしれない

アゲハチョウ科では、えさにする植物が変わることと、種類が分かれて増えることの間に、関係が見られます。九州大学の発表は、食べる植物を見分けるしくみが変わると、えさの植物が変わり、新しい種類が生まれる出発点になる可能性がある、と書いています。

同じ発表は、このしくみを調べることが、農作物の害虫を防ぐ方法にも役立つ可能性がある、と書いています。前脚の毛の研究は、チョウの進化の研究と、害虫を防ぐ研究の両方につながる可能性があります。

この記事に出てきた言葉の意味

  • 感覚子:昆虫の体の表面にある、毛のような感覚の器官。中に神経の細胞が入っている
  • 味覚受容体:決まった物質がくっつくと、神経に信号を送るたんぱく質
  • ドラミング:チョウのメスが前脚で葉の表面をたたく動き
  • RNA干渉:2本鎖のRNAを入れて、決まった遺伝子の働きを弱める方法

05まとめ

「チョウは足で味を感じる」は本当です。アゲハチョウのメスは、前脚で葉をたたいて味見し、幼虫が食べられる葉かを確かめてから卵を産みます。

2011年、日本のチームは、ナミアゲハのメスの前脚で、ミカンの葉の成分シネフリンを感じるセンサーを見つけました。そのセンサーを止めたメスは、シネフリンをぬった葉に卵を産みにくくなりました。それでもミカンの葉の抽出液をぬった葉には卵を産んだので、メスはいくつものセンサーで葉を見分けていると考えられます。ミカンの木でアゲハを見かけたら、前脚の動きを見てみてください。葉をトントンとたたいていたら、それは味見をしているところです。

人に話すなら、こう言おう

チョウって足で味を感じるんだけど、アゲハのメスは前脚で葉っぱをトントンたたいて味見してから卵を産むんだって。日本の研究で、ミカンの葉の成分を感じる前脚のセンサーまで見つかったらしいよ。
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英語で読む

Butterflies Taste with Their Feet

CEFR A2226 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

A female swallowtail butterfly lands on a leaf of an orange tree.アゲハチョウのメスが、ミカンの木の葉にとまります。 She taps the leaf quickly with her front legs.メスは前脚で、葉をすばやくトントンとたたきます。 Then she decides to lay an egg there or fly away.それから、そこに卵を産むか、飛び去るかを決めます。

Why does she tap the leaf?メスはなぜ葉をたたくのでしょう。 Butterflies can taste with their feet.チョウは足で味を感じることができます。 The young caterpillars can eat only a few kinds of plants, so the mother must choose the right leaf.幼虫は数種類の植物しか食べられないので、母親は正しい葉を選ばなければなりません。 At the end of each front leg, a female has 50 to 70 tiny hairs that can sense chemicals.メスの前脚の先には、物質を感じとれる小さな毛が50〜70本あります。

In 2011, a team of scientists in Japan studied this butterfly.2011年、日本の科学者のチームがこのチョウを調べました。 They found a gene for a taste sensor in the female's front legs.彼らは、メスの前脚で働く「味のセンサー」の遺伝子を見つけました。 They tested the sensor with chemicals from orange leaves.そのセンサーを、ミカンの葉にふくまれる物質で試しました。 It reacted to only one of them, called synephrine.センサーが反応したのは、シネフリンと呼ばれる1つの物質だけでした。

Next, the team stopped the sensor from working in some butterflies.次に、チームは何匹かのチョウで、このセンサーが働かないようにしました。 They gave these butterflies fake leaves with synephrine and one more chemical on them.そのチョウたちに、シネフリンともう1つの物質をぬった人工の葉を与えました。 Only 21 percent of them laid eggs.卵を産んだのは、そのうちの21%だけでした。 But 78 percent of normal butterflies with a simple water shot laid eggs.一方、水だけを注射したふつうのチョウは、78%が卵を産みました。 The butterflies without the sensor still tapped the leaves, and they tapped for a longer time.センサーのないチョウも葉をたたき、しかも長い時間たたき続けました。

However, they still laid eggs on leaves with real orange leaf juice.けれど、本物のミカンの葉の液をぬった葉には、それでも卵を産みました。 So the butterflies may use many sensors together to check a leaf.ですから、チョウはいくつものセンサーをいっしょに使って葉を確かめているのかもしれません。 Next time you see a butterfly tapping a leaf, you will know that she is tasting it.次に葉をたたいているチョウを見かけたら、それは味見をしているのだと分かるでしょう。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How many tiny hairs does a female have at the end of each front leg?

    メスの前脚の先には、小さな毛が何本ありますか。

  3. Q3Why must the mother butterfly choose the right leaf?

    母親のチョウが正しい葉を選ばなければならないのはなぜですか。

  4. Q4In paragraph 4, the word "fake" is closest in meaning to ...

    第4段落の fake という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the story?

    この話の内容と合うのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • taste動詞
    味を感じる、味見する

    Can you taste the salt in this soup?

    このスープの塩味が分かりますか。

    💡 名詞で「味、好み」。taste good で「おいしい」。

  • tap動詞
    軽くたたく

    He tapped me on the shoulder.

    彼は私の肩を軽くたたきました。

    💡 スマホの画面を「タップする」も同じ語。

  • lay動詞
    (卵を)産む、置く

    Our hens lay eggs every morning.

    うちのニワトリは毎朝卵を産みます。

    💡 lay an egg で「卵を産む」。過去形は laid。

  • caterpillar名詞
    イモムシ、チョウやガの幼虫

    The caterpillar became a beautiful butterfly.

    その幼虫は美しいチョウになりました。

    💡 工事用の車の「キャタピラー」も、この虫の動きから。

  • sense動詞
    感じとる

    Dogs can sense danger.

    犬は危険を感じとることができます。

    💡 名詞では「感覚」。the sense of taste で「味覚」。

  • chemical名詞
    化学物質

    Do not touch that chemical.

    その化学物質にさわってはいけません。

    💡 形容詞で「化学の」。chemistry は「化学」。

  • sensor名詞
    センサー、感知するもの

    The light turns on with a sensor.

    その明かりはセンサーでつきます。

    💡 sense(感じる)+ -or(〜するもの)。

  • fake形容詞
    にせの、本物でない

    This is a fake flower made of paper.

    これは紙で作ったにせの花です。

    💡 fake news(にせのニュース)でよく使う。反対は real。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 26件)。

  1. Ozaki, K. et al. (2011) A gustatory receptor involved in host plant recognition for oviposition of a swallowtail butterfly, Nature Communications 2:542doi.org
  2. アゲハチョウが植物を味で見分けて産卵する仕組みを解明(九州大学 プレスリリース, 2011年11月10日)kyushu-u.ac.jp
  3. Minnich, D. E. (1921) An experimental study of the tarsal chemoreceptors of two nymphalid butterflies, Journal of Experimental Zoology 33:172–203doi.org
  4. Minnich, D. E. (1922) A quantitative study of tarsal sensitivity to solutions of saccharose, in the red admiral butterfly, Pyrameis atalanta Linn., Journal of Experimental Zoology 36:444–457doi.org

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